銀行が見ている決算書のポイント 融資を受けやすい決算書とは?
2020年に発売された『世界一楽しい決算書の読み方』(著者:大手町のランダムウォーカー)という本が、ビジネス書部門で販売上位となり、10万部を超えるベストセラーとなっております。
私も15年間金融機関に勤め、多くの決算書を見て融資判断業務を行ってきました。
その経験をもとに今回は、財務分析のプロ集団である銀行の人が、どのような視点で決算書を見ているのか、ということを中心に記事にしてみました。
銀行業界を目指す方、業界内の新人の方にも、入門編として役立つ情報となっております。
(銀行・信用金庫・政府系金融機関・信用保証協会等を、まとめて「銀行」と表記させて頂きます)
目次
1.そもそも決算書とは何か
決算書とは、簡単に言うと「1年間の成績表・健康診断表」です。
決算書は財務3表と言われる貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書等を中心に構成されております。
キャッシュフロー計算書は大半の中小企業には作成義務はないものですが、決算書データから銀行側で必ず作成します。
- 貸借対照表(B/S)…決算時点における会社の状態を示す(健康診断表)
- 損益計算書(P/L)…1年間の成績を示す(成績表)
- キャッシュフロー計算書…会社の血液とも言われるキャッシュ(現預金)がどのように動いたかを示す
銀行は、これらの資料を数年度に渡り比較することで、色々な分析をしております。
2.銀行が見ている決算書のポイント①粉飾の有無
次に、「粉飾決算」について説明します。
粉飾決算と聞くと、「ライブドア」や「東芝」などを思い浮かべ、物凄く悪い犯罪のようなイメージを持つ方も多いと思いますが、軽度なものは日常的に行われています。
健康診断をイメージすると、身長を測る時に少し背伸びをしたり、健康診断の日に向けて軽く食事制限をする、ということです。
この程度の粉飾は、溢れています。
銀行では、粉飾の有無を確認し、「本来の姿」を把握することをします。
具体的にどのような粉飾が行われやすいのか、いくつか例を紹介します。
粉飾の例
- 来期の売上を今期に持ってくる
- 今期の支払を来期に回す
- 商品在庫をごまかす
- 経費とすべきものを経費としない
- 架空取引
1つずつ説明していきましょう。
来期の売上を今期に持ってくる・今期の支払を来期に回すというのは、両者間の合意で簡単にできます。
売掛金・買掛金というのは、「発生主義」で計上します。では、この「発生主義」のもと、どのように調整するかというと、
「今期売上足りないから、来期の分も一部請求書出していい?」といった具合に調整できます。実際の金銭の授受のタイミングや、金額が変わらなければ、お互い特段問題ないと感じますよね。この操作をするだけでプラスにもマイナスにも利益調整ができてしまいます。
商品在庫をごまかすというのは、原価の計算方法にあります。
商品原価=期首商品在庫+当期仕入高ー期末在庫商品
です。この期末在庫商品を膨れさせると、原価が減る=利益が増えます。
例:100+1,000-100=1,000 → 100+1,000-200=900 費用が100減る
という感じです。少し評価方法をいじくったりなど、調整方法はいくらでもあるのが現実です。
経費とすべきものを経費としないというのは、減価償却を適正に行っていない、貸付金・仮払金・立替金などとして会計処理し社外に流出したお金を資産計上している、というものを言います。
本来は経費になるのに、経費として落としてしまうと赤字になってしまうので、経費にしないということです。
最後は架空取引です。これはアウトですね。ありもしない売上を立てたり、という操作です。
以上のことを繰り返していると、必ず異常値として判明してしまいます。
単年度だけで終わればまだよいですが、常習化してしまい取返しのつかない状況になることもあります。
少し背伸びしたい気持ちも分かりますが、必ずばれてしまいます。
3.銀行が見ている決算書のポイント②資産の健全性と返済能力
次は、資産の健全性と返済能力を見ます。
資産の健全性は、「粉飾の有無」で確認した不健全な資産を取り除いたり、実際の評価で引き直したりして、確認します。
例えば以下のようなことです。
資産の補正
- 実態のない売掛金を削る
- 在庫を適正評価する
- 貸付金、仮払金などを資産から削る
- 投資株式を時価評価で引き直す
- 不動産評価を時価評価で引き直す
などです。このような操作をし、削る対象が多いと見かけは問題の無い会社でも、実態は債務超過になってしまうというケースも多くあります。
融資をする際には、返済能力の有無を見ますが、その際に重要なのがキャッシュフローになります。
見かけの利益は少額でも、キャッシュフローが多ければ返済ができます。例えば、高額な設備の減価償却費が大きいため最終利益が少ないが、キャッシュフローは多くある、というケースです。
その他にも、高額な役員報酬を設定している場合なども、余剰分は返済能力と見ることもあります。
4.融資を受けやすい決算書とは
これまで見てきたように、「粉飾が無く」「不健全資産が無く安全性が高く」「返済能力がある」、以上の要件を満たしていると、融資しやすいです。
当たり前ですね(笑)。
ただし、そのような会社は少数です。ここで、新たに融資しやすい条件を加えます。それは、
嘘を付いていないこと、赤字でも理由を把握しており改善策を言えること
という条件です。もはや決算書の中身ではないですが。
過去に、赤字・債務超過だと融資はできないという説があったため、粉飾してでも見かけ上の黒字を作ろうとし、その名残が今もあるのだと思います。実際にそうだったのでしょう。銀行側の罪も大きいですね。
しかし、私が勤務してきた期間は少なくともそうではありませんでした。
「与信」という言葉の通り、信用が大事です。まずはありのままの状況をさらし、例え赤字でも、経営に対する真摯な姿勢を見せることです。
銀行員も人間です。少なくとも、私は上記のような経営者には全力で応えようと奮起しました。
多少上司とぶつかることはあっても、経営者が自社の状況をよく分かっており、改善の方向性を探り実行に移していれば、最終的には上司からの理解も得られ融資ができることは多かったです。
「お金」を扱っている以上、「信用」を最も大事なステータスとして見ています。
5.まとめ
以上です。
最後に、おそらくこれから、大量のリスケが始まります。
コロナ融資はモラルハザードを起こしてます。規模の大小は名言は避けますが、間違いない事実です。
その際に、経営改善計画を立てたり、という専門的な作業が必要になります。
リスケから正常化への道について、今後執筆していきたいと思います。