経営理念 企業理念 理念教育について
今回は、たまには経営コンサルタントらしいテーマということで、「理念」について解説します。
厳密には、経営理念・企業理念・ミッションなどを分けて考えることもあるのですが、今回はまとめて「理念」として考えます。
改めて、「理念」について深く考えてみましょう。
1.一般的な理念に対する解説と具体例
一般的に「理念」とは、企業の存在意義・経営方針・活動方針の基礎となる考え方・創業者の想い、などなどです。
具体的に見た方が早いので、有名企業の「理念」を見てみましょう。
選んだ基準は何となくです。
日本を代表する企業、私が最近よく行くコメダ珈琲店、地元横浜を代表する企業、ということで選びました。
トヨタについては、「基本理念」という形で書いてありますね。
ここから分かることは、「グローバル」に力を入れていることです。
グローバル企業として、地球をよくする、経済・社会を発展させると書いてあります。
ここで理解してほしいのは、「車」という単語が一切出ていないのです。
トヨタは車を作る会社というのは、消費者の勝手なイメージであり、実際に収益の柱は「金融」だったりもします。
そして、最近は「街づくり」が話題になってますね。
「理念」が会社の方向性を示しているのです。
車を作るのではなく、グローバルに地球を良くする、経済・社会を発展させるために何をすべきか、ということが意思決定の基準となり、「街」をつくろうという意思決定ができるのです。
車を作る会社という固定概念があると、このような意思決定はできません。
「理念」は、会社の方針を示し、意思決定の基準となるものなのです。
同じように、コメダ珈琲も見てみましょう。
「珈琲を大切にする心から」「くつろぐ、いちばんいいところ」です。
トヨタとは違い、モノを限定してますね。
コーヒーと場所です。
このように、「限定」をすることで「やらないこと」をはっきりさせています。
例えば、お酒の取り扱いや、回転率重視の狭い店舗の出店、などは絶対にやらないでしょう。
これも、会社の方向性をはっきり示し、やるべきこと・やらないことがはっきり分かるので、意思決定の基準となります。
最後に、崎陽軒です。
面白い理念ですよね。
否定から入り、目指すべき方向性を示しています。
どんどんと販売拡大をするのではなく、「横浜」に限定したローカルブランドがあるべき姿であり、食だけでなく名物・名所をつくり、お腹だけでなく心も満たす。
こうやって見ると、この通りに戦略を練ってやっていることがよく分かりますね。
もっと作って売れば儲かるのに、と普通は思うかもしれないですが、「あえて」やらないのです。
この「拡大戦略は取らない」という方向性がはっきり示されているので、「商品をより良くすること」「地元に密着して何か面白いプロモーションはできないか」などが戦略の方向性となります。
この理念に準じて意思決定をしていけばよいのです。
このように、理念を見ると「なぜトヨタが街づくりをするのか」、「なぜコメダはあんなに居心地が良いのか」、「なぜ崎陽軒は拡大戦略を取らないのか」が分かりますね。
そして、この企業の方向性・方針以外にも、「意志決定」の迅速化というのが本当に重要です。
2.理念は作らなければならない?変えてはならない?
とは言っても、「理念なんかないよ」という企業も少なくありません。
実際に、私が金融機関時代に担当していた中小企業は、体感ですが半分くらいは理念を掲げてませんでした。
私は、これは当然といえば当然と考えてます。
起業前に全てをしっかり考えて、きちんと準備するということは、ほとんどないと思います。
勢いで起業をし、目的は「とにかく稼ぎたい」ということも非常に多いと思います。
最初はこれで良いと思います。
ただ、ある程度の規模になり、自社が扱う商品・サービスがはっきりとしてきたら、理念は作るべきだと思います。
理由は、前章で述べた通り、「会社の方針がはっきりする」ことと、何か新しいことをする際の「意思決定の基準となる」からです。
新たに従業員を雇う場合にも、基準になりますしね。
ようするに、より効率的に会社経営をするために、理念は作った方がよいということです。
では、一度作った理念は変えてはいけないのか。
そんなことはありません。
むしろ随時見直しましょう。
さすがに毎年変わる理念は理念と呼べない(ただの年度目標)ものになります。
明らかに時代にそぐわなくなったと思ったら変化させるべきでしょう。
3.理念教育は絶対にしなければならない
そして、掲げた理念はしっかりと教育しなければなりません。
と言うと、朝礼で大声で暗唱させるようなイメージを持つかたもいらっしゃると思いますが、一言一句覚える必要はありません。
会社の方針、やるべきこと、やらないこと、従業員としてどうあるべきか、などを把握させておけばよいと思います。
余談ですが、私は以前ベトナムの日系企業の工場を見学したことがあるのですが、しっかりと現地の方にも理念教育をしてました。
なぜ、理念教育をするべきなのか、というのは、決して「会社人間」を作るためではなく、何度も言っているよう「意思決定」のためです。
理念は言わばその会社内での共通言語であり、それが全員の基準になっていればスムーズな意思決定が行われるのです。
次章で具体的に理念教育が行われないデメリットを考えていきます。
4.理念教育がおろそかになると
理念教育がおろそかになると、会社内がバラバラになります。
基準となるものが、部署ごとにバラバラになったりし、セクショナリズムの要因になったりもします。
例えば、私の前職である「地域金融機関」を例に考えてみましょう。
地域金融機関の理念は大体どこも同じです。
「地域・自社の発展」「従業員の幸福」「コンプライアンス」などだと思います。
これらが意思決定の基準となるものですが、教育が行われていないと、「地域」がおそろかとなり「自社」の成長ばかり考えたり、「従業員」を否定ばかりし雑に扱ったり、「コンプラ」を振りかざし小さなミスに過剰な罰を与えたり、などの弊害が出ます。
意思決定の基準は「これは本当に地域のためになるのだろうか?」これだけを考えれば良いのです。
結果的にそうなれば「自社の発展」に繋がり、従業員の満足感も満たされます。
従業員の幸福が優先されていれば、うつ病になりません。
なったら対策を取るのではなく、ならないようにするべきなのですが、従業員幸福を重視した意思決定が行われないと、メンタル不調者が続出してしまいます。
そして、将来の方向性です。
トヨタが「車」という言葉を理念に入れていないのと同様、金融機関も「融資」という言葉は使われません。
ほとんどが「金融サービス」などと書かれます。
つまり「融資」は手段であり、その手段が陳腐化・形骸化し始めていたら、新たなサービスを作るべきです。
そのように、はっきりと目的と手段が分かっており、理念が浸透していると、トヨタのような「街づくり」という発想がすぐに出て、迅速な意思決定で実行されていくのだと思います。
一方、理念教育が曖昧で、金融機関において手段である「融資」が目的化してしまうと、真に地域・自社に必要なサービス、従業員が成長できるサービスが、いつまでたっても生まれなくなってしまいます。
また、投信・保険などを「新たな金融サービス」と安易に位置付け、専門外のレッドオーシャンに身投げをして、重要な人的リソースを成長事業に集中できないということも起こしてしまいます。
本当に、「理念」を達成するために何をすべきか、ということを真剣に考える癖をつけさせ、誤った意思決定をしないためにも、理念教育は非常に重要です。
大体失敗してしまう会社を見ると、「理念」とは違うことをやってしまうことに大きな要因があります。
例えば、「いきなりステーキ」です。
もともとの運営元であるペッパーフードサービスの、「経営方針」においしい料理、「経営理念」に地域社会も豊に、などといった言葉が書かれてます。
しかし、地域に根差す時間もなく、一気に拡大戦略を取り、十分な教育もできないまま、おいしい料理すら提供できないという状態になり、その後の値上げなどもあり一気に顧客離れが進みました。
理念教育は非常に大事です。
5.まとめ
「理念」というのは、会社の方向性を示し、迅速な意思決定をするために、非常に重要です。
立派に掲げるものではなく、従業員に浸透させ、会社内の共通言語とするものです。
最初は無くても大丈夫ですが、規模が大きくなれば、経営を効率化するためにもあった方がよいです。
理念教育がしっかり行われないと、組織の方向がバラバラになったり、意思決定が属人的になったり、理念とは違う方向に組織が進み崩壊する可能性も出てきます。
どうでしょう?
「理念」は何となく耳障りの良い言葉で、外部に対し掲げるもの、というイメージを持っている方もいたのではないでしょうか?
経営のプロでも「理念」なんかいらない。会社は「株主」のために仕事をすればいい。という人もいます。
株主のためにも、経営を効率化させる「理念」があった方がいいですよね。
もし、自分の勤めている会社の理念を知らずに働いている人がいたら、すぐに確認しましょう。
そして、組織の方向性が違う方向へ進んでいたら、正す努力をしてみましょう。
以上です。