信用金庫の生き残り戦略 を本気で考えてみる①
今回は、信用金庫が生き残るための戦略を具体的に考えていきたいと思います。
以前、金融業界がどのように変化していくべきか、という簡単な記事を書いたことがあります。
その中でも、特に淘汰される絶対数の多い信用金庫について、多面的に生き残りの戦略を考えてみたいと思います。
戦略の思考プロセス、という面でも役に立つ知識があると思いますので、ぜひ最後まで読んでください。
目次
1.外部環境を考える
まずは、業界を把握する上で欠かせない「外部環境」分析です。
外部環境分析をする際に最も有名なフレームワークは、PEST分析とファイブフォース分析です。
PEST分析
- Politics(政治):政権、税制など
- Economics(経済):景気、為替など
- Society(社会):人口動態、流行など
- Technology(技術):ITなど
以上の4つの視点から、自社に与える影響を考える
ファイブフォース分析
- 競合の脅威:既存の競合他社
- 新規参入の脅威:新規参入
- 買い手の交渉力:顧客
- 売り手の交渉力:仕入先
- 代替品の脅威:代替品
以上5つの脅威について考える
非常に有名なフレームワークですね。
まず、PEST分析でどのようなことが考えられるのかまとめます。
PEST分析より
- 税負担・保険負担は増え続け国内貧困化が継続(マクロ)
- コロナ・オリンピックにより景気は悪化(マクロ)
- 人口は減少し続ける(マクロ)
- IT化の遅れにより、IT先進国との差が拡大(マクロ)
- 信金法の規制(ミクロ)
- 地盤エリアの経済に左右される(ミクロ)
- 地盤エリアの人口動態に左右される(ミクロ)
- IT化・自動化等を随時おこなっていく必要(ミクロ)
このようなことが考えられます。
マクロ観点は、仕方ないですね。日本の国力低下を嘆いてもどうしようもないので、ここは復活に向けて大きなうねりが発生するのを待つしかないです。
正直、GDPは低下し続け世界を引っ張る国にはなれないと思いますが。
と同時に、それで良いと思ってますが。
とにかく、個人の責任でしっかり貧困に備え対策を打っておきましょう。
次にミクロ観点です。
信用金庫は、信金法という法規制の下に経営するという制約があります。
1兆円の預金があれば、それを海外で5%で運用すれば儲かるのですが、そういうことはできません。
大きな問題は、「地盤エリア」が決まっていることですね。
人口動態の変化により、「地盤エリア」で営業ができなくなってしまう場合、もうこれは防ぎようがありません。
ドライな言い方をすれば、じり貧の状態で最後の最後まで営業するより、早く銀行に吸収されて労働生産性を上げるべきだと思います。
ここで、淘汰されてしまうのはやむを得ないと思います。
唯一何かできそうなところは『IT化』のところです。
次にファイブフォース分析です。
ファイブフォース分析より
- 競合:メガバンク、地方銀行、政府系金融機関などと競合
- 新規参入:ネット銀行、ネット証券など
- 買い手:若い人は利便性からネット系を利用、融資利用者は低金利へ
- 売り手:預金する人。金融リテラシーが向上していくと、預金者は減少
- 代替品:ファクタリング、クラウドファンディング、キャッシュレス化など
脅威は多いですね。
一方で、預金は余っている状態なので、売り手の脅威はそれほどでもないと思います。
買い手については、「金融商品」「融資」利用を前提に考えています。
このような外部環境の脅威を、どのように避けていくかという観点で戦略の方向性を考えていきます。
2.戦略の方向性
本来は、もっと分析に分析を重ねるのですが、信用金庫は他の競合に比べれば「弱者」です。
よって、取るべき戦略は「弱者」が勝ち残るための戦略ですね。
有名なものでランチェスター戦略です。
弱者の戦略と言われるランチェスター戦略ですが、日本の企業のうち99.7%が中小企業です。
ほとんどの会社がこのランチェスター戦略をもとに考えると、何かしらの良いヒントが得られます。
具体的には、『エリアを絞って』『商品も絞って』『勝てるところで勝つ』というイメージです(かなり簡略化してますが)。
では、これを信用金庫に当てはめてみましょう。
エリアは絞られているので、商品を絞りましょう。
例えば、メガバンクや大手地方銀行と同じサービスを準備しようとしても、全てが劣化版になってしまいます。
例えば、イオン並の品揃えを、地方の個人経営のスーパーで対抗しようとするイメージです。
仕入力も違えば、物流などのオペレーションも全く違います。
勝てるわけがありません。
が、実際にやっているのが現状ですね。
では、実際にイオンに対抗しているスーパーはどういうところか。
それは、例えば地元農家と契約している、地産地消に強いこだわりがある、宅配サービスの充実、などですよね。
経営資源の豊富さで勝てるわけはないので、経営資源を分散させてはいけません。
勝てる分野に、経営資源を注ぎ込むことで、優位性が保てる部分を作り、育てるのです。
これが戦略の方向性です。
3.やめることを考える
まず、何をすべきか
ここで考えてしまいがちなのが、「新しいこと」つまり「勝てる分野」を探すことです。
例えば、「新たなビジネスモデルの構築」などを最初に掲げることです。
これは順番が違います。
また「新たなビジネスモデルの構築」のために中途半端に経営資源が削られます。
まずは、「何をやめるか」を一番に決めるべきです。
何かをやめれば、経営資源に余力が生まれます。
また、何をやめるかもそうですし、順番は違いますが何かを始める時に重要なことは、「現場の意見」をまず聴くことからです。
やってはいけないのは、「まず外部委託する」ことです。
これは、責任を丸投げして、万が一失敗しても外部に責任をなすりつけられるという、いかにも古い日本企業的な考えですね。
1本の大きな道筋が決まってから、どの部分を外部に委託すべきかを決めるという順番です。
では、具体的に「何をやめるか」の一例を考えてみましょう。
やめることの例
- 投資信託販売(商品面)
- 保険販売(商品面)
- 外国為替(商品面)
- 銀行業務検定(自己啓発面)
- 年功序列(人事労務面)
- 不明瞭評価(人事労務面)
多くの信用金庫でまだやっていそうなことを例に挙げてます。
まず、投資信託や保険販売は、多くの顧客にとってメリットはありません。
信用金庫側には「手数料」というメリットがあるのかもしれないですが、それは本来その経営資源を「特化すべきこと」に注いだ場合に得られる付加価値との比較をしてません。
というか、できません。
手数料は「フロー型」のすぐにP/Lにのる利益ですが、「特化すべきこと」はどちらかというと「ストック型」です。
すぐには成果が出ない可能性がありますが、それこそ「非営利企業」である信用金庫にできることです。
このストック型のものをどれだけ確保できるかが重要です。
おそらく、多くの現場で働いている人が、「投資信託」や「保険」を疑問を持ちながら販売していると思います。
特にFP資格を取って、自社の商品を売るのは間違ってますね。
FPは、数ある商品の中から、中立的に最も顧客に適した商品を販売することを求められていると思います。
疑問を持ちながら自社商品を販売してはだめです。
FPは、自分自身の金融リテラシーを向上させる分には多少役立つ資格ですが、自社の投信や保険を売る程度であれば必要ないので、他の資格を取らせる方が有意義です。
同じ理由で、「銀行業務検定」です。
これは、やる必要ありません。
私は、一歩外に出た現在、履歴書などに「財務2級」「税務2級」なんて書きません。
業界のためではなく、大事な社員のために、「国家資格」を中心に取得させていくようにすべきです。
『人の時間』=『経営資源』です。無駄なことは排除しないといけません。
外為業務については、大手に任せて撤退です。
あとは、年功序列は廃止です。
終身雇用は、それでいい人はいいですが、年功序列はだめです。
あとは、不明瞭な評価はだめです。
こんなことを未だにやっている会社はないと思いますが、上の好き嫌いで何らかの処遇に変化があるような会社は、誰もいなくなります。
私物化甚だしい最低な行為です。
ないとは思いますが、信用金庫は「ガバナンス」がききづらいというデメリットもあるため、もしかしたらまだこんな会社があるかもしれないので・・・。
人事労務面は、『人を最も大事な経営資源』と認識した上で、『流出を防ぎ』『大事に育てる』という方向性で、客観的事実や、多面的に行われた評価のもとで、『年功序列』や『仲良し人事』のようなものを排除し、透明性・公平性を確保し、納得性を担保できるものを作るべきです。
このように、「やめること」から考えていくと、どんどんと経営資源に余力が生まれます。
4.やるべきことを考える
やめることを考えたあと、やるべきことを考えていきます。
例えば、上で少し触れましたが、人事労務改革などもその1つです。
他には、「国家資格」中心の資格取得とあわせ、特化すべきこととシナジーのある資格取得に振り切ることなどですね。
例えば、製造業に対して何かしらの特化を考えていれば、それ系の資格を取らせるとかですね。
あとは、最初のPEST分析で触れたIT化です。
これも、やるべきことです。
例えば、現在の『人的コスト』と『時間コスト』から優先度を決めて取り掛かります。
具体的には『融資』です。
これは、金融機関の主力商品と思われがちですが、その価値観自体を捨てないと次に進めません。
『融資』はもはや、いかに低コストで無駄なく提供するか、という低付加価値商品です。
この低付加価値商品に、少しばかりの付加価値を付けて販売する行為は、無駄な行為です。
安く・早く、やるべきです。
こういうことを書くと「低金利でやれと言うのか」というロジックの破綻した人が出そうですが、そうではなくリスクプレミアムなど込みで、余計なコストを上乗せせずに融資をしましょうということです。
そして、浮いた経営資源で、融資ではない別の柱に特化していくべきです。
なので、IT化は、審査コストをなくす(AI化)、工程を減らす(極端なことを言えば、言われたその場で電子契約)方向性です。
『審査』をAI化することに抵抗を持つ人がいるかもしれないですが、結局人がやると感情も入るし、責任の押し付け合いみたいな状況も発生するので、責任の所在をAIに求められるのはむしろ嬉しいのではないでしょうか。
本来、責任に対して高い給料が支払われているのに、責任を負いたがらない人はたくさんいると思うので、Win-Winです。
どうしてもやるべき案件は、それこそAIがはじいた後に、人の感情を込めてやればよいのです。
どうでしょう?ここまでで、だいぶ経営資源に余力が生まれてきたと思います。
あとは、この経営資源を活用することです。
そのために次は『外部人材の活用』です。
スペシャルなスキルを持つ外部人材を、中途でがんがん雇います。
その能力を発揮させ、周囲のスキルアップにも繋げます。
例えば、IT系の人材や、プロコンなどです。
この外部人材は、高給です。
ただ、こういう人たちは、週2回の出勤などでも、普通の社員の何倍も成果を出せる人たちです。
柔軟な働き方を活用しましょう。
これで、『経営資源』もムダなく活用できます。
5.まとめ
信用金庫が生き残るための戦略を考えました。
まずは外部環境分析をしました。
次に、弱者の生き残り戦略から、「やらないこと」を決めました。
その後、「やるべきこと」を決めました。
あとは、融資に変わる「事業の柱」を決めるのですが、それはそれぞれの信金次第です。
よく、「信用金庫は株式会社ではない」ということがメリットに取り上げられます。
つまり、「株主ではなく、地域に還元される」という意味合いです。
してます?
また株式会社でないメリットとして、「迅速な意思決定」というメリットもあります。
できてます?
これに、思い切り「はい」と言えないようでは、むしろ株式会社の方がいいです。
まずは、そもそもの入り口として「経営理念」を社員の100%が言える状態かどうかですね。
そこに「存在意義」の全てが書いてあります。
それが100%認識されていないようでは、何もできません。
信用金庫業界には愛着がありますので、もしご希望があれば、一緒に戦略の方向性を考えますので、全国の信金さんお待ちしております。