信用金庫の生き残り戦略 を本気で考えてみる②
今回は、「信用金庫の生き残り戦略」について考えてみるのPart2です。
この記事を書こうと思ったきっかけは「中京銀行」の記事を読んでです。まずは引用記事を見てみましょう。
三菱UFJ銀行が筆頭株主の第二地方銀行、中京銀行(名古屋市)は7日、希望退職を募集すると発表した。低金利競争などで経営環境が悪化しており、体制のスリム化を図る。地銀や第二地銀が希望退職を募集するのはまれで、金融庁は「近年、その事例には接していない」としている。
同行は「募集人員は特に定めない」としているが、2月発表の2023年度までの中期経営計画では、行員数を今年3月の約1100人から最大3割削減する方針を示している。
募集対象は45歳以上の総合職などで、募集期間は8月2~20日。応じた行員の退職金は増額し、再就職の支援も行う。会長、頭取は21年12月までの半年間、役員報酬を2割減額する。
約90店ある店舗についても、23年度末までに3割減らす計画だ。22年3月期連結決算については、退職金や再就職支援費用などがかさむとして25億円の最終赤字(前期は23億円の黒字)を見込んでいる。
ヤフーニュース「読売新聞オンライン」の記事より引用 https://news.yahoo.co.jp/articles/2869f1a07db0d52b9990b98066987959b54724d8
元金融機関の人間として、結構衝撃的でした。
なぜ衝撃的なのか、この記事を受けて信用金庫はどうすべきなのか、書いていきたいと思います。
目次
1.中京銀行の希望退職募集の衝撃
従来言われていたことは、「人口が減少していく地域の地域金融機関は存続が厳しい」ということでした。
実際に、前回のpart1を書いた(4/20)あとの5/14に「青森銀行とみちのく銀行の合併も視野に入れた経営統合」の記事が出ました。
しかし、今回の中京銀行は「第二地銀」とはいえ、名古屋を地盤とする銀行であり、規模も「そこそこ」と言えるレベルです。
個人的な意見では、規模もそこそこで、トヨタのお膝元で多くの中小企業があるから、当面は大丈夫だろうと思ってしまいます。
なので、徐々に経営環境が厳しくなっていけば、自然とどこかと合併しながらゆっくり変化していくのだろう、と考えます。
それがひっくり返されたことが衝撃的ですね。
金融庁でさえ「まれな例」と言っている通り、金融機関が早期退職を募集することはほとんどありません。
単独で生き残るために、今後の環境変化を考えると、今高給取りの人材を減らし、店舗を減らしておかないとダメだ、という経営判断でしょう。
逆に言うと、同じくらいの規模感の都市部の金融機関は、同じことをしないと生き残れないとも取れます。
金融機関は、「右にならえ」の傾向が強いので、今まで早期退職を募りたかったけど「前例がない(この言葉金融機関は大好きです)」からできなった、ということも考えられます。
今回、前例ができたことで同じように希望退職を募る銀行が出てくるかもしれないですね。
銀行業界でこの流れが加速すると、信用金庫業界にもすぐに影響が出てきます。
なにせ、ライバルが予想より早く経営のスリム化を実現し、労働生産性を上げてきますので、同じ土俵で勝負している限り対抗しないといけません。
何気ないニュースのように見えますが、金融業界に与える影響は大きいと考えます。
2.信用金庫はどうすればいいのか
次は信用金庫はどうすればいいのかです。
基本的にはpart1と変わりませんが、もう少し深堀りしていきましょう。
まず、そもそもどうやって変化するのかという話です。
中京銀行は、筆頭株主が三菱UFJ銀行です。
銀行業界を知り尽くした株主が、今何をすべきかということを踏まえて出した答えでしょう。
株主の意向を反映し改革に乗り出せるのだと思います。
一方で、信用金庫は株式会社ではありません。
本来、株主の意向に左右されない意思決定ができる、というのは非株式会社におけるメリットなのですが、そのメリットが働かないのが実情です。
なぜなら、経営者はただの雇われサラリーマンや元〇〇省みたいな人で、経営に詳しい投資家ではありません。
仮に経営に失敗しても、経営者たちは無事自分たちが定年退職ができればそれでいいと考えてしまうかもしれません。
経営者は、大きく変化するよりも、自分たちの任期を波風たてずに終えることを重視するかもしれません。
株式会社であれば、そのような「怠惰な経営」を株主の意向で変革させることができますが、信用金庫はこの「ガバナンス」がききづらいのです。
つまり、「怠惰な経営」を責めることができないのです。
なので、そもそもどうやって変化するのかということが大きな課題となります。
考えられる方法は、誰が経営者でもいいのですが、経営者しか大きな変化を起こせない体制であることは間違いないので、「トップダウンで一気に変化させる」ことです。
将来の職員たちへの責任というものを考え、現在の外部環境というものを踏まえ、周りの変化を待つのではなく一気に自分からリスクテイクをしながら変化する、という選択をすることですね。
経営陣が無能なら、有能な人たちがうまく経営陣を操るという方法ですね。
とにもかくにも、世の中の変化に合わせ、素早く変化できる体制を整えないことには生き残りは難しくなってしまいます。
この環境下で変化をしない、もしくはゆっくりでいいと考えるのは、本当に罪深いです。
3.希望退職をさせる、ということではない
変化といっても、希望退職をさせる方向で動くということではありません。
結局、銀行と同じ業務内容で生きていくには、ライバルと同じことをしないといけないので、当然人員構成も追いつかないと勝負にならないです。
ただし、私がpart1でも言ったのは「新たな収益の基盤を作り、オンリーワンになっていくこと」です。
銀行の劣化版のようなことを続けるのであれば、存在意義はありません。
おそらく中京銀行は、今のビジネスモデルを継続するにあたって、ここまでの店舗と人員は必要ないから削減する、という判断でしょう。
信用金庫においては、別のビジネスモデルを構築し、そこに人材をはじめとした経営資源を投下し、地域になくてはならない存在になり生き残っていく、という戦略が必要なので人員削減は必須ではないと思います。
何度も言っている通り、戦う土俵を変えるのです。
もしくは、ブルーオーシャンを作ってしまうのです。
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4.とにかく迅速に変化できる体制を整えること
今回は短いですが以上となります。
まずは体制づくりができないとどうしようもありません。
今回の記事で重要な点は以下の通りです。
今回のまとめ
- 都市部の地銀が希望退職を募った
- 前例さえできれば「右にならえ」が大好きな銀行業界ではこの流れが加速するかもしれない
- 信用金庫も、銀行と同じ土俵で戦うならそうしないと勝負にならない
- 同じ土俵で戦うのではなく、自分たちにしかできないことをやる方向性で考える(part1で説明)
- そもそも、迅速に変化できる体制を整える必要性がある
- 信用金庫は株式会社ではないという点が、変化の早い世の中でデメリットとなっている
- そのような信用金庫が迅速な意思決定をするには、「トップダウン」が最も効果的
- 一丸となり「ブルーオーシャン」を見つけ、経営陣がそこへ最短距離で導く体制づくりをしましょう
という感じになります。
問題点や課題を突っ込まれると、いい気分がしない人もいるでしょうが、事実は事実として受け止めることからスタートです。
こんな世の中だからこそ、経営者の経営能力が問われますね。