本紹介⑪生涯投資家 コーポレート・ガバナンスに全てを注ぐ
今回の本紹介は『生涯投資家』です。
2017年6月発売で著者は村上世彰氏です。
村上ファンド、と言った方がピンときますね。
村上氏の経歴・理念・逮捕の裏側などが書かれております。
私は、kindleでたまたま無料だった時に読みました。
何気なく読み始めたのですが、非常に面白かったです。
内容はそこそこに、特に印象に残った点を紹介していきたいと思います。
他の本紹介に興味のある方は「まとめ記事」を参考にしてください
1.華々しい経歴と苦労
まず、この村上世彰という方は超優秀です。
投資家である父親から、その哲学をしっかり学びながら、東大へ行き官僚となり通産省へ入省する。
幼少期より株式運用をし、学費を自分で稼いでいたとのことです。
日本で『コーポレート・ガバナンス』(企業統治)の考えを浸透させることを理念とし、官僚を辞めてファンドを立ち上げます。
その後の苦労、逮捕に至るまでの経緯が村上氏視点で書かれており、非常に楽しめる内容となっております。
このコーポレート・ガバナンス(企業統治)という言葉が多く出てきます。
これは、「投資家が経営者を監督する」ということです。
最近は当たり前になってきており、「社外取締役の設置」要件が法律で厳格化されたりしております。
このコーポレート・ガバナンスの目的を『企業価値の向上』と位置付け、コーポレート・ガバナンスを広めることを理念とし村上ファンドを立ち上げます(当初は名前が違いますが)。
立ち上げ当初の日本企業は
当時の日本の上場企業の状況
- 株式会社は株主のものという意識がない
- サラリーマン社長が次の社長を選ぶという構造で、株主を見ない
- 企業価値を高めることをせず、内部留保を積み上げる
- 中には会社を私物化する経営者もいる
- 上場をする必要がないのに上場をし、いびつな形となっている
という会社が非常に多かったようです。
今もそうだと思いますが…、少しはマシになっているんですかね。
そして、このような状況を是正するため、株主となり「企業価値向上」のために意見を出していくのですが、『もの言う株主』としてまるで悪者のようにメディアに取り上げられていきます。
いまだに「もの言う株主」という単語を聴くことがありますが、いい加減止めて欲しいですね。
当たり前のことをしているだけです。
日本式経営とメディアの印象操作に非常に苦労を重ねていく様子が描かれていきます。
2.具体例紹介
いくつかの会社に、ちょっとした強硬手段を仕掛けます。
その様子がこのように書かれています。
そんなとき、私が悪しき会社と見なすのに典型的な「株主と向き合わず」「経営者が保身に走り」「株主価値を鑑みない」放漫経営の会社が見つかった。この会社への投資は、私のライフワークと言えるほど長期にわたることになる。マスコミの注目も浴び、世の中が「会社は誰のものか」について考え直す大きなきっかけになった。
本文より引用
これは、東京スタイルという会社にプロキシーファイト(議決争奪戦)を仕掛けた時の話です。
それ以外にも、ニッポン放送・阪神鉄道の話など、日本を騒がせた話が村上氏目線で書かれているので、これを読めるだけでも非常に価値があると思います。
ニッポン放送は、ライブドアの登場により大きく注目されました。
結局この時の堀江氏(ホリエモン)とのやり取りがインサイダーとして扱われ、村上氏は逮捕されてしまいます。
裁判官から言われた言葉は、非常に面白かったです。
『「ファンドなのだから、安ければ買うし、高ければ売るのは当たり前」と言うが、このような徹底した利益至上主義には慄然とせざるを得ない。』と言われたそうです。
本当かどうかは分かりませんが、資本主義の日本国の裁判官が、安く買って高く売ることに戦慄を覚えてしまったら、もうどうしようないですね。
とにかく、派手に活動しているように見えていたのですが、やっていたことは「コーポレート・ガバナンス」を広めたいという理念のもと、市場で売られている株式を合法的に購入し、株主として当然の権利を使用していただけ、ということです。
それを、「モノ言う株主」として悪者のような印象を植え付けたのはマスコミ等のメディアです。
というのが、この本を読んで思ったことです。
ライブドアの堀江氏(ホリエモン)は、上場したばかりの2000年代初頭に、村上氏に対して
上場するというのは公器になったということであり、だれでも市場で株式を購入できる状態になること。ファンドにしても安ければ買う、高ければ売るのはビジネス上当たり前。上場している以上は、誰が大株主になっても、自分はその株主の下で企業価値を向上させ、会社を運営していく
本文、ホリエモンの言葉より引用
と言ったそうです。20代の頃ですかね。
このような非常に頭の良い経営者を、異分子として潰してしまったという側面も見方によってはあるでしょう。
ニッポン放送・フジテレビの件は、是非読んで欲しいので軽めに触れる程度にしますが、「1万円の入った財布が7,000円で売っている」といういびつな形だったそうです。
それがおかしいから「持株会社」を作る等の対策を取るべきとした村上ファンド、インターネットとのメディアミックスで新たな事業展開を考えたライブドア、がそれぞれニッポン放送の株式を取得したというだけの話です。
ぜひ読んでみて下さい。
3.中立的な立場で見ること
本の内容はこのあたりまでとします。
本から何を学ぶか、ということは非常に重要であり、本書からはコーポレート・ガバナンスのことや、上場するということとはどのようなことか、日本企業の特徴、などを学べます。
ただ、私が深く学べたのは、「片方の主張しか耳に入ってこないこと」の恐怖です。
村上氏のような頭の良い方が、いびつだと思っていたことは、実際にそうなのでしょう。
しかし、メディアの取り上げ方は完全に悪者でした。
私の持っていたイメージも、残念ながら「金稼ぎにしか興味のないハゲタカ」のようなイメージです。
そのイメージは本書を読んで変わりました。
頭は良いんだけど、ちょっとコミュ障であるが故に誤解され、お金は手段であり目的ではないのに歪曲され、自分のやりたいことができなくて苦労した。
という風に見えます。天才なのでしょうが、家族を大事にする1人の人間です。
では、村上氏を完全に善とし、マスコミを完全に悪とするのか、というとそうではありません。
自分を良く言っている面も少なからずあるでしょう。
危険なのは、片方の意見を盲目的に信じ込み、そういうものだと評価してしまうことです。
常に中立的に見る姿勢を持ちましょう、ということです。
これが本書から学んだことです。
4.客観的に見て間違いない主張
双方の意見を見た上で、それぞれに間違いのない主張というものはあるはずです。
それを学びとして持っておくと良いと思います。
村上氏の主張している
間違いのない主張
- コーポレート・ガバナンス(企業統治)
- 企業価値の向上
これは間違いないでしょう。
サラリーマン社長が会社を私物化できてしまうのはおかしいです。
それを「おかしい」という株主に対して「もの言う株主」というのもおかしな話です。
正しい主張は何なのか、それをしっかり見極められるようにしましょう。
本書と少し関係しているホリエモンの著書なども非常に面白いですよ。
さすがに、今これだけホリエモン側がインフルエンサーとして力を持っているので、ホリエモンが完全な悪と思っている情報弱者はいないと思いますが、日本の司法制度のいびつな形・出る杭を打つを国家レベルでやっているということ、が非常によく分かります。
まぁ、これも片方の意見なので、盲目的に信じるのではなく中立的に見ましょうね。
5.まとめ
以上、今回は「生涯投資家」をご紹介しました。
本当に面白い本です。ぜひ読んでみて下さい。
そして、中立的にものごとを見ること、簡単に評価をしてはいけないこと、をお伝えしました。
本当に、片方の話しか聴かずに評価を下すことはやめた方が良いです。
噂話で他者を評価するなど、絶対にダメですね。
ただの思考の放棄です。生き方として楽なのでしょうが。薄っぺらい、狭いコミュニティでしか生きていけない危険な考え方ですよ。
敵・味方なんて関係なく、中立的に見て、正しい意見・主張から学びを得ていきましょう!
以上です。